「ズバリ、そうでしょう!」
by もんぷち 様
若島津は中学に上がるまで、ニュース以外のTVを殆ど観たことがなかったそうだ。
よってアイドルも知らなければ、ゲームもアニメも知らない。
どんなうちで育てばこんな純粋培養種が出来上がるのかと思ったが、日向さんによれば、空手十段のいかめしい父上様がどーんと構えた、それこそ大時代的な家らしい。
本人曰く「別に不自由したことがないし」。
寮暮らしということでさすがの若様も少しずつ色々覚えつつあるが、これまで免疫がなかった分、ちょっとしたことでも過剰に面白がる為、見ていて飽きないのだった。
ことの起こりは、日曜日の夕方だった。
談話室のTVはたまたま清水市を舞台にしたアニメがかかっていて、俺は悪戯心から、通りかかった若島津に声を掛けた。
「ねえ健ちゃん、これに長谷川監督の子供時代が出ているって知ってた?」
「へええ!」
一緒にいた日向さんは何か言いたげだったが、若島津は目を輝かせて画面に釘付けになった。
デフォルメされたキャラ設定に興味を持ったのか、矢継ぎ早に質問してくる。
「コイツ、何者?日本人?」
「清水一の大金持ちのお坊ちゃん。ロールスロイスで通学している。キザで結構モテ男」
「ふーん。設定は若林だけど、中身は三杉かぁ」
隣で島野がぶっと吹き出した。
画面ではぐるぐるメガネの学級委員長が、甲高い声で喋り出す。
「……コイツは?」
「ガリ勉君。学級委員長になることに命を燃やしてる」
「何で?」
「何で……って、人の上に立ちたいんじゃない?」
「そんなの人望があれば、自然と回りに人が集まるだろ」
「そういう理屈の通じるキャラじゃないんだって」
若島津は日向さんを振り返った。
「俺達が三年になった時、キャプテンになるのはあんただけだと思っていますよ」
「……そんなの監督が決めることだろ」
「いいえ、キャプテンはズバリあなたしかいないでしょう!──って感じ」
俺達は呆然と若島津を見つめた。
ヘンに裏返ったコイツの声色が、学級委員長にそっくりだったからだ。
いつも柔らかで、微かにかすれる若島津の声が、一つ間違えば●尾君になるなんて誰が想像しただろう。
「ズバリ、そうでしょう!──うん。結構似てるかも♪」
自分でも満足そうな若島津に、日向さんは重い足取りで近付いた。
ぽんと肩に手を掛け、真剣な顔で一言。
「……止めておけ」
後になって、全ての元凶はお前だと日向さんに怒られた。
(おわり)
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