「今日は何の日?」 ゆのまゆさま
ここは眞魔国、血盟城。
地下の厨房では少々焦げくさい臭いとぐつぐつと煮えたぎる音が聞こえる。
またもやギュンターが胡散臭い占でもやっているのかと心配したグウェン
ダルが 、もともと狭い眉間を更に寄せて、コンラッドに頼みに来た。
「私は、どうもアノ時のギュンターとはまともに話ができんのだ。」
アノ時のギュンターには、さすがのツェリ様も、アニシナさえも近寄れな
いオーラをだしているからな。まともに話ができるのは誰もいないだろう。
そう心の中で思いながらもコンラッドはにっこりと笑って、厨房探索の役
を引き受けた。
扉の前で1つ大きな深呼吸をする。
もしかしたら、中では毒ガスが発生しているかもしれない。そういえば、
グウェンの 城でも朱色の煙を発するラー油占という眼にも喉にも鼻にも
一度に刺すような痛みを 発する恐ろしい占をしていたと聞いたことがあ
る。大きく息を吸い込んで勢いよく中に飛び込むとそこには小さな鍋の前
で眞魔国27代魔王陛下が頭を抱えていた。
「陛下?」
突然の声に驚いた魔王陛下渋谷有利原宿不利は、持っていた本を床に落と
してしまった。
「こ・コンラッド?」
気のせいか、声も上ずっている。コンラッドは落ちた本を拾い上げ、ユーリ
に渡そうとしたが。
「『誰にでも作れるおいしいお菓子』?」
「わああああああああああああああ!」
「何を叫んでるんです。近所迷惑ですよ、陛下。」
近所ったって、ここはすんげー広い俺のうちで、近くに普通の家なんてな
いじゃん。上目遣い(本人はとっても睨みつけてるつもり)で、そう呟くと、
コンラッドの長い手から本を取り返した。
「で?」
「な・・・なんだよ。」
爽やかな笑みが恐い。知らず知らず、ユーリは後ずさりしていた。
「なんで、お菓子なんて作ってるんです?」
「あ、え〜と。グレタになんか作ってやろーかと思って、さ。」
「・・・・・・・・」
ナ・ナンデスカ?家臣ガ上様ニタイシテソンナ態度デイイノデスカ? いか
にも「それはありえない」という表情をしてコンラッドはユーリの瞳を覗い
たが、闇より深い黒の瞳は「私は嘘をついています」と教えてくれるだけで、
知りたいことは映してはくれないようだった。
「ま、いいでしょう。そういうことにしときましょう。」
ため息とともに短くそうこたえた。 愛しいユーリをいじめるのも楽しいの
だが、嫌われてしまったら生きていけない 。コンラッドは話の矛先を変え
ることにした。
「でも、一体これはなんなんです?誰にでも作れるお菓子なんじゃないんで
すか ?」「ううう。・・・俺、まだあんまり字が読めねえからさあ。本見てても全
然ダメなんだ。イラスト見ながらでも、と思ったけど、この国の絵って、まだちん
ぷんかんぷんって感じだし。」
ユーリにとっては、この世界の絵はみんな「マルかいてちょん」にしか見え
ない 。いや〜、文化の違いって恐ろしい。この「そこらに転がってるような
野球少年」の俺が絶世の美人だし。
「お手伝いしましょうか?」
誰にでも優しい、でもユーリには特別優しい男が手を差し伸べる。
でも、今日は!
2月14日の今日この日は、コンラッドの手を借りることはできない!!
「いいよ。自分でやりたいんだ。まあ、この厨房見たら給食のおばさんたち
怒るかもなー。」
意思を持った黒い瞳がきらきらと光るのを見て、これ以上言い募るのはやめた。
「あのさ、コンラッド。いつもの時間にいつもの場所で待ってろよ。」
「キャッチボールですか?」
「まあ、そんなもん。いいか?必ず来いよ?」
「かしこまりました。では、火傷にはくれぐれも注意してくださいよ、陛下。」
深々と頭を下げ、回れ右をして部屋から出ていこうとすると。
「あ、そうそう。陛下なんて言うなよなー!名付け親―!」
背中に投げられるいつもの台詞に軽く左手を挙げて応える。コンラッドは胸が
温かく なっていくのを感じた。
「さてと」
コンラッドのいなくなった広い厨房でユーリは焦げた鍋を見つめた。
「やっぱさー、作ったことのないモンは作れねえよ。ホットケーキは作ったこ
とあるけど、ホットケーキの粉がなきゃ作れねえしなー。」
こんなときに、魔力が使えたらいいのになー。とりあえず、見える範囲にある
食材は、卵に小麦粉、鰹節にシーフード、キャベツなどなど。
「うーん。やっぱ、あれでしょー。」
なにやら閃いたらしい魔王陛下は鼻歌を歌いつつボールに卵を割りいれた。
いつもの時間にコンラッドはいつもの場所に訪れた。
いつものようにグローブとボールを準備して。
「ユーリ?」
いつもと違うのはユーリのほうが先に来ていて、コンラッドが近づくのを待っ
ている。
「あれ?俺、時間を間違えました?」
「いや。コンラッドがいつもどんな気持ちで俺を待ってんのかなーと思って、
早めに 来てみたんだ。」
いたずらが成功した子供のように嬉しそうににこにこと笑っている。
周りには誰もいない.。二人しか知らない秘密の場所。
コンラッドはユーリを骨が折れそうなくらい力強く抱きしめた。
「ユーリ・・・」
口付けようとしたその瞬間、目の前に大きな皿があらわれた。
「・・・ピザ?」
呆気にとられているコンラッドにますます機嫌をよくしたユーリはチッチッ
チッと指を横に振った。
「じゃ〜ん。ユーリ陛下特製お好み焼きでございま〜すっ。」
シーフードたっぷりのいい香りを漂わせるそのタベモノをコンラッドは初めて
見るらしかった。
「あのさ、今日なんの日か、知ってるか?」
「今日?2月14日ですか?・・・。ユーリの誕生日でも、俺の誕生日でも、
グウェン、グウォルフ、ギュンターの誕生日でもないですね。」
「地球の日本では、バレンタインデーって言って、好きな人に告白できる日なんだ。」
ユーリの顔がだんだん赤くなるのは夕日のせいだろうか?
「好きだよ、コンラッド。誰よりも1番に。」
ユーリの表情が見たいのに、逆光になっていてよく見えない。
でも、黒い瞳が光っている。黒い髪が揺れている。
それだけで十分だった。
「本当はさ、チョコレートあげるのがメジャーなんだけど、眞魔国にチョコな
いだろ?だから、その代わりになるお菓子作ってたんだけど、知ってるとおり
全然だめでさ。お好み焼きなら、簡単だし、何度か作ったことあるから、頑張っ
てみたんだ 。」
照れ隠しのためか、早口でしゃべりまくっている。
コンラッドはその口を自分の唇でそっと塞いだ。
「ユーリ。ありがとう。俺も誰よりも1番、あなたを愛してる。」
そのまま草の上に押し倒される。茜色に染まった空と雲以外は何もない、2人
だけの世界。
「ちょーっと、待ったあ!」
そのままコトに進もうとコンラッドは首筋に唇を寄せようとしたが、急にユーリ
がガ バリと起き上がってしまった。
「せっかく作ったんだから、お好み焼き食べようぜ。冷めたらうまいもんもま
ず く なっちまう。」
少しがっかりした表情のコンラッドだったが、確かにユーリの手作り、それも
自分のために作ってくれたお好み焼きというタベモノを温かいうちに食べたく
なってき た。
「そうですね。このまま日が暮れたら、ここは急激に冷えて、いくら二人で運
動してても裸では寒いですからね。」
暖かい部屋で温かいお好み焼きを食べてからゆっくりと。
にっこりと微笑んで、ユーリを肩にかついでしまう。
「なにすんだよ?!」
慌てる彼の背中をぽんぽんとたたいてやる。
「この方が早く部屋に帰れるし、少しでも長くあなたに触れていたいから。」
コンラッドの台詞に照れてしまい、何も言えなくなってしまう。
こいつはギャグで寒くさせるのも一流だが、こんな台詞で俺の心を暖かくする
のも一 流らしい。
「ば〜か。」
おれだって、少しでも長くコンラッドとくっついていたいよ。
その後の台詞は口にできなかたけど、コンラッドの心には届いたらしい。
嬉しそうに笑っている。
この笑顔をずっと見ていたい。
この笑顔をずっと守りたい。
きっと考えていることは二人おなじなはず。
ああ眞魔国とこの二人に幸あれ。
まるマSS初のお宝がこんなかわいいお話でうれしーですぅ(>_<)
ユーリかわいいvv次男の為に一生懸命なのね!!
コンもお持ち帰りできて(?)よかったね!!!
管理人'S的には夜に至る続きを激しく希望中です
(ずーずーしくてゴメンナサイ…)