ゆのまゆさま
最近、若島津はガーデニングにはまっているらしい。 日向たちの住んでいるのは(すみません一緒に暮らしているんです)、極々普通のマンション。小さなベランダがあるだけで、庭付きの一軒家でもなんでもないのだが、若島津は鉢やらプランターを買ってきてはいろんな草花の苗を植えつけている。 いつも綺麗な草花を見れるのはいいのだが、日向にしてみれば、花は若島津1人で十分なのだ。 お互い別々のプロチームに所属している二人は、一緒に暮らしていても共有できる時間は意外と短い。 せっかく一緒にベッドに入っても草花が気になるらしく、ここ1ヶ月ほどはえっちをさせてくれない。 いい加減、欲求不満になりそうなのだが、日向は気になることがあって、もう一歩踏み込む勇気がないのだった。 「もうすぐ誕生日だよな。何が欲しい?」 「うーん、花の種がほしいなあ。」 「あのさあ、誕生日プレゼントだし、他に何かないわけ?」 日向は肩をがっくり落としてため息とともにつぶやいた。 花の種なんて、よっぽど珍しいものでもない限りたかが知れてる。まさか「勇気の花」(あんぱんまん)や「まごころ草」(めろんぱんなちゃん)の種がほしいとかっていうんじゃなさそうだし。 「今、一番興味あるのって花だし、一度種から育ててみたいなって思ってたんだ。」 「ふ〜ん。」 苗から育てるのも、種から育てるのも変わらないんじゃないか?それに種から育てるのってなんかめんどくさそー。 「生き物育てるっていいよなあ。水やって肥料やって、それに応えて綺麗な花咲かせてくれたら、すっげー嬉しい。苗だと途中から育てることになるけど、種から育てるのって、自分の子供みたくてもっとかわいいんじゃないかな。」 若島津の何気ない一言に日向はどきりとした。 も、もしかして、こどもが欲しいのか? それとも他に好きな奴ができて遠まわしに別れたいって言ってるのかも。 それ以来、日向は若島津に対してちょっと自信を無くしてしまっている。 若島津の笑顔を疑ってるわけじゃないけど、恋するココロは敏感なのだ。 「近頃、日向ちょっと変だね。」 「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、俺と花。どっちが大事?」 日向はもう死ぬ覚悟で聞いた。 ここで「花に決まってんじゃん」とでも答えられたら本当に死んでしまうかもしれないけれど。 そんな真剣な表情の日向に若島津は我慢しきれないように噴出した。 「はあ?ばかじゃねえの?そんなくだんないこと悶々と考えてたわけ?」 「だって、花が子供みたいでかわいいとか言ってるし。最近やらせてくれねえし。」 「花なんかに嫉妬するかよ。ふつう。」 ふわりと抱きつき、何かを言おうとした日向の唇をそっとふさぐ。 花はきれいで安らげるけど、日向の目はもっと綺麗だし、そしてあたたかい。 それにこんなに強く抱き返してくれる。 「俺の一番大事なのはお前だけだよ。」 そう言いながら口付けてくる恋人の身体は花の香りがした。 「とうとう日付が変わった。」 今日、俺の誕生日なんだけど、覚えてた? 若島津はいたずらっぽく笑って言った。 「げっ・・・」 毎日、若島津のことを考えすぎて、肝心の誕生日のことを忘れていた。 ちょっぴり青ざめている日向に気づかない様子で若島津は話を続ける。 「別に、日向とのえっちが嫌いで最近しなかったわけじゃないんだ。ただ、俺が嫌がったら一体どれくらいガマンしてくれんのかな、なんてさ。」 時々えっちだけが目的なのか心配になると言い、少し心細そうに目を伏せた。 「でも、もうダメ。俺のほうが、日向を欲しくて狂っちまいそうだよ。」 「で、俺がどれだけお前のことが好きかわかっただろ?」 しばらくぶりの甘い身体を手にし、満ち足りたカオで日向はそう尋ねた。 「う〜、どうだろ?やっぱり身体だけ?とか思ってしまったけど。」 「そんなこと、あるはずないだろ?!」 慌てて起き上がり、睨むように見つめてくる男に微笑がこぼれてしまう。 「うそうそ。わかったよ、十分に。俺のために1ヶ月もえっちガマンしてくれたしな。」 それと、今のえっちでもわかっちゃったんですけど。 あんなに日向の腕は優しかったっけ? 日向の広い胸、器用な長い指、そして太陽のアツサを持つ唇。 全部、ほしい。 誰にも渡したくない。自分だけのモノ。 「俺もなんか育てるかな・・・」 「ダメ!」 日向の呟きに即座に若島津は却下した。 「日向は、俺の世話だけをしてればいい。」 「・・・わがまま・・・」 あまりの言葉に絶句してしまう。でも。 そんな我儘までもが愛しい。 自分にだけ、こどものようにわがままを言うことを知っている。 『えっちだけが目的なのかと心配になる』と言った若島津の表情が忘れられない。 これからは、若島津というわがままな花を育てよう。 |