「抱いて」

震える唇が言葉を綴った

「抱いてください」

もう一度告げようと開いた唇はあんたの熱い吐息と舌で塞がれた

 

何もかも、全て忘れさせてほしかった

あんたを追ってここまできたことを

あんただけ見てきたことを

あんたを欲しくて堪らないことを

 

戯れでいいから

あんたが抱いてくれたなら

あんたを追って走ってきたことを

あんたしか見えないことを

あんたを思って震える胸を

もう全てなかったことにしてしまうから

 

褐色の肌に弄られ、ジリジリと焦がれた心を焼き尽くして欲しいとしがみつく。

あんたの唇がおれの名を呼び

あんたの腕がおれの身体を組み敷く

もっと酷く

もっと強く

おれを求めてくれ

その激しさを

その熱さを受け止めて

何もかも、全て忘れてしまうから

 

激しく腰を打ち付ける律動が速くなり、急速に追い立てられる身体はただ喘ぎ、もう何も考えられなくなる。

意識を手放す寸前、
耳元であんたが何か呟いた。

 

何もかも、全て忘れさせてほしかった

あんたと離れることのできないおれを

あんたの旅立ちを祝えないおれを

あんたを好きで壊れそうなおれを






2006.3.31up









暗い…お初で最後の思い出として、てな感じな健ちゃんですが、
小次郎は「忘れさせやしねぇぜ」と言ったはずです(汗)

back