「なぁ、あんたのクラス、今日『桜の樹の下で、ひとり思うこと。』に続く文書を書けってあったんだろ?あれ、なんて書いた?」 「あー、あれか『腹減った』って書いといた」 「は?なにそれ?あんた小学生でももっとマシな答えだすよ」 「ぁんだよ、いいだろ。そのとき丁度腹減ってたんだよ。俺が桜の樹の下で、ひとり何思おうが勝手だってーの」 「ねぇ、他に何か思いつかなかったの?」 「何が?」 「だからさ、前々から反町たちが言ってんじゃん?俺って桜のイメージがあるって」 「だから?」 「だから、って。――もう、俺のこと考えなかったの?て、聞いてんの!」 「?…お前アホか。何で俺が答案に『桜の樹の下で、ひとり若島津君のことを思いました。』なーんて書かなきゃなんねぇの」 「…俺の名前だせとは言ってねぇよ。けど、仮にも桜と称されている俺のこと好きなんだろ?あんた俺のこと好きだっていつも言ってんじゃん?だったら桜って聞いただけで俺を連想しろよ」 「何言ってんだ?」 「だーかーらー!『桜によく似たあいつのことに想いを馳せた』とか。…こんなこと言わせんなよっ、もう!」 「…お前、あきれるほどアホだな。そんなこと思ったって書けるわけないだろ?」 「あ、思ったんだ?」 「お、思ってねぇよ!」 「じゃあ、思えよ!今すぐ思え!考えろ!」 「なんで俺が」 「あ〜あ、反町なんかスグ俺のこと連想したって言ってたのになぁ」 「反町が!?」 「そう、俺のことダ〜イスキな反町君が」 「……………」 「ね、なんか考えたくなってきたでしょ?」 「…なんだか腑に落ちねぇがそんな気がしてきた…」 「じゃ、考えて。『桜の樹の下で、ひとり思うこと。』はい!」 「はい!って…はぁ、一体なんでこんなことに…それにここは桜の樹の下でもねぇのによ」 「あ、場所が必要?だったら部室の裏の桜の樹の下に行こうよ」 「またわけわかんねぇことを…あのな、今はもう夜。消灯間近なんだぞ。抜け出していった所で真っ暗でなんも見えねぇつーのっ」 「あ、あんた知らないんだ?桜の白い花びらが月明かりにぼうっと浮かんで。夜の桜もなかなかいいもんだよ」 「――というわけで、やってきました夜桜でーす♪」 「――というわけで、連れてこられました。部室の裏に…」 「ね、いいでしょ?幻想的でしょ?夜桜って」 「幻想的ってこういうことなのか知らねぇが…お前と桜がなんとなく似てるってことはわかったぞ。桜の白い花とお前の白い顔がボウ〜と浮かんで、おっかねぇ〜〜」 「む!それを言うならあんたなんて闇と同化して、何処にいるんだか分んねぇよ!」 「口の減らねぇやつだな。わざわざここまで来てやったってのに」 「あ、そうだよ。ほら早くここ来て、桜の樹の下でひとり思わなくっちゃ」 「――俺こんな夜分に何やってんだろ?それに『ひとり思う』って、ひとりじゃねぇしよ」 「ここまで来て何グダグダ言ってんの?早く考えてよ。俺のことを思って!」 「……………………あ゛〜〜『桜の樹の下で、ひとり思うこと。』『毛虫がいっぱいだな』」 「あぁ、まるで俺にくっついてる日向さんみたいだよね」 「なにぃ!?」 「ねぇ、まじめに考えてよ。なんだか寒くなってきた」 「そんな薄っぺらいモン羽織ってくるからだ。ほら、こっちこいよ」 「うん」 「な、もう戻るか?寒いんだろ?」 「嫌だッあんたが俺のこと考えてくれるまで帰らない!」 「駄々っ子か、お前は」 「大丈夫だって。こうしてあんたと抱き合ってたら寒くないし。あんただってこっちのほうが俺のこと考えやすいだろ?」 「う〜ん、考えやすいというより、何も考えられなくなるような…」 「ほら、眼を閉じて。俺を感じて」 「………………………」 「どう?桜=俺ってイメージ浮かんだ?」 「………………………」 「なんか、言えよ!」 「………………………」 「おい!日向!?」 「だ――――っっうるせぇ!キスさせろッッキス!!」 「え?っちょ、うっうぅ〜〜………………………は、ちょっと待て!うっ、ん゛〜〜〜〜〜〜!!………………………!?だっ背中、背中!樹に押し付けんな!毛虫、毛虫潰しちまうだろっ!馬鹿!!!」 「!?痛ッッツ、なにすんだっ!?」 「それはこっちの台詞だぜっ何サカッテんだよ、馬鹿日向!!」 「馬鹿はお前だ!お前のこと考えたんだから、こうなるに決まってんだろ!」 「あ―――!!もうあんた全然分ってない!」 「なにが!?」 「もういいよ、帰ろう。あんたにそんなこと求めた俺が馬鹿だったよ」 「おい、待てよ。わかった、考えるから怒るなよ、な?」 「………じゃ、本気で考えてよね」 「わかった。待ってろ、今スグ考えるから」 「できた?」 「んな、スグできん」 「スグ考えるっていったじゃん〜」 「おまえなぁ」 「ね、俺のことスキ?」 (好きだから、こんな馬鹿なことやってんだろ) 「ね、俺がいなくなったらどうする?」 (そんなこと、許さねぇよ) 「毎年桜を見たら何処にいても俺を思い出してくれる?」 「?」 「あんたに覚えててもらいたいんだ、俺のこと。俺たちが思い出になっても……」 「お前な、そんなこと考えてたのか」 「そんなことって、あんたは思わないのかよ!?俺は思うよ、毎年この時期。あとどれだけあんたと一緒に居られるのか、って…」 「…………あのな、いいか?よーく聞けよ。 『桜の樹の下で、ひとり思うこと。』 『俺はお前を思い出にはしない』 『俺はお前を離さない』 『俺はお前と歩いていく』 『桜の樹の下でお前に誓おう』 ………………………どうだ?」 「―――――な、んだよ、やればできんじゃん…。なぁ、もう1回言って?」 「え?」 「もう1回言ってくれよ」 「………忘れた」 「言えよ!」 「んな恥ずかしいこと何度も言えるか!大体な、桜を見てお前を思えなんていうが、俺は――――――」 「『俺は』なに?」 「………なんでもねぇ」 「なんだよ、言いかけといて止めんなよ。さっさと言え!」 「るせぇ、なんでも無いっってんだろが!」 「………………………」 「お前反則だぞ、そんな顔したら俺が話すと思ってんだろ?………あぁ!くそっ桜の花なんか見なくても、俺はお前のことばかり考えてる!」 「え?なんて?もう1度言って」 「ばっ!!聞こえてるくせに嫌なヤロウだぜ」 「へへっ、だって、あんたからそんな台詞聞くとは思わなかったから。やっぱり桜の樹のおかげかな」 「なんで桜なんだよ。がんばったのは俺だぞ!ご褒美くれ、ん〜〜〜」 「ヤだよ。また毛虫押し付けられちゃあかなわねぇからな」 「軽〜〜くていいから、な?」 「ヤ、だ。手離せよ…」 「………………………」 「………………………」 「…ほら誓いのキス終了。この桜の樹の下で俺、日向小次郎は若島津健に永遠の愛を誓います!あ、順番逆か?」 「ばっ、馬鹿か、あんたは!?」 「うるせえよ、お前も誓え」 「え?うっ………………………俺も誓います」 「よし、じゃあ急いで寮に帰って続きをしようぜ」 「続きって?」 「明日はちょうど休みだろ、今日は新婚初夜ってことで初々しく頼むぜ、相棒…痛ぇ!!」 「黙れ、馬鹿!!」 「あ、おい、待てよ!冗談だってっ。いつも通りでいいからよ、置いてくなよ、若島津!!」 ――――――――この夜、若島津が日向に対して初々しくサービスしたのかどうかは不明だが、ふたりとも翌朝の朝食には間に合わなかったのは周知の事実である。 |
桜の樹の下で、ひとり思うこと。