どんなに綺麗な指先を持つ手よりも
傷だらけで節くれだった、この手を選ぼう。
俺の夢を実現へと導く、この手を……。




「ご気分は如何ですか?」
ぼんやりとした視界が白い塊。
「日向さん!日向さん!分かりますか?」
それがやたらと俺の名前を連呼している。
ようやく焦点が定まってきたようで、白い塊が看護婦の制服の色だと認識できた 。

「ここ病院ですか? 俺は……」
動かすのも億劫な口をようやく動かすと、これ以上はないって感じの笑顔を作った看護婦が3人取り囲んでいた。
「気分悪くありませんか?」
「事故で頭を強く打たれたんですよ」
「5日間も意識が戻らなかったんですよ」
次々と俺の状況を立て続けに説明してくれているが、何とか理解できたのは 事故で頭を打って5日間も寝ていた事。
どーりで全身だるいと思った。

「そーだ先生に報告へ行かないと」
色々と説明を続けていた看護婦達の1人、俺の手を握り締めていた看護婦が思い出したように立ち上がり、他の2人を連れて病室を出て行くと漸く静けさが戻り、静かになったことに深い溜息をついた。


動かそうとして点滴の刺さっていた右腕はそのままに、左手で前髪をかきあげた 。
手の平に触った額に巻いてある包帯の感触に、ああ怪我してるんだと少し思った 。
左手を目の前にかざす。

確かあいつの手を握ってたような気がしたのに夢だったのかな、と手を握ったり 開いたりを繰り返した。
先程の看護婦の手とはまったく正反対の手。

「いつまで鼻の下伸ばしてるんですか?」
特別室だと思われる病室のベッドから少し死角になる場所にある応接セットの ソファーに腰掛けたまま、話しかけられた。

「人ぎきの悪い事を言うな」
「手のひら見つめて、彼女達の感触を思い出していたんじゃないんですか?」
向こうからも見えないはずなのに、自分の動作を指摘されると、やましくないの に どきどきとしてしまう。

「そんなとこに居ないで、こっちへ来いよ」
「目が覚めた途端に命令ですか?何か嫌だな」
いつもより少し冷たい声が聞こえる。
「お願いしたら、来てくれるのか?」
「どうしようか……その時、考えます」
何でこんなに意地悪されるんだろう……心当たりは無いんだけどな。
「是非こっちへ来て頂きたいのですが?」
「……仕方ないですね」
ふっーという溜息が聞こえ、本当に仕方ないと言うような緩慢な動きの気配を漂わせて、ソファから立ち上がってベッドサイドまで奴は来た。

「俺、何か悪いことしたか?」
「覚えが無いんですか?」
質問を質問で返すなと言いたかったが、若島津のやつれた顔を見て止めた。
「俺、ここに3日間泊まり込んでるんですよ。
どんなに呼んでも反応1つしないで 悠長に寝続けていたくせに、
態度がデカいんですよ、あんたって人は……」
涙を零しているわけではないのに、
俺は若島津が泣いているような気がした。
力なく立ち尽くしている若島津の手を握り、
少し力を込めて引っ張った。
ベッドとの高さの違いで、
若島津は殆ど抵抗せずパイプ椅子に座り込んだ。

「悪かった」
「あんたが目を覚ますまで、生きた気がしなかった」
若島津の手を掴んでいた俺の手を反対側の手で包みこみ、
自分の額に当てる若島津の姿が弱々しく見えた。
「お前…こうやって俺の手を握ってくれていたんだろ? 
目覚めた時も看護婦じゃなく、
お前が握っていてくれたんだろ?」
「気づいていたんですか?」
若島津は意外そうな顔をした……それは、ちょっと失礼だぞ、若島津。
「俺が他人とお前の手を間違うわけねぇ」
「ホントですか?」
少し嬉しそうに目元がほころんだ。
「俺を導いてくれる、世界でたった1つの手だからな」
「そんな言葉をすらすらと言うなんて、
どこか打ち所が悪かったんじゃないの」
「おまっ、人が折角」
素直に……と続けようとしたが、若島津の唇で邪魔された。
軽くあわせた後、離れようとした唇を追いかけ深く重ねた。

きっと照れて赤くなっているだろう顔を見られたくないのか、
俯いている若島津の手を握り締め、
俺の大事な手にそっと口づけた。






End









美紗さまからSSをいただけるとは夢にも思いませんでしたヽ(^o^)丿
天にも昇る気持ち〜ありがとうございますv
若島津の強がっている中にも不安で堪らなかった気持ちが伝わってきました。
こんなに甘えられて愛されている小次郎は幸せ者ですvvvvv

カット描かせてください〜!と意気込んだくせに…せっかくの雰囲気を壊してしまってすみません(ToT))
本当は大事な手を握ってる所を描きたかったんですがぁぁぁぁ〜〜