目に見えるもの。
手に触れるもの。
声を聞けるもの。
どれを信じれば良いのだろうか……。
何を信じれば不安にならないのだろうか……。



久しぶりに戻った血盟城。
明るすぎる月に誘われるように裏庭へと出た。
青白い月明りが木々の陰を作り出すように、自分の前に自分の形の影。
黒い影の中に隠しておきたいものを閉じ込めるように、じっと見つめる。


あんな気持ちは自分らしくない。
あんなことを考えるのは魔王として間違っている。
しかし、俺自身の心としては……。

黒く色を落とす影に取り留めなく思考を引き摺られる。



突然ふわっと暖かいものに身体が包み込まれた。
「こんな薄着で何をしているんです、陛下」
「へーかというな、名付け親」
振り向かず足元に視線を漂わせたまま、いつものやりとりをしてしまう俺。
「すみません、ユーリ。つい癖で」
俺に着せ掛けた自分のコートの上から背中越しに抱き締められた。


「こんなに冷え切って、風邪を引いてしまいますよ」
自分の体温を移すかのようにコンラッドは、俺の前でクロスさせていた腕に力を 入れて互いの距離を縮めた。
「コンラッド……」
自分にまわされたコンラッドの腕を抱き締めて、そっと凭れかかった。
「なんです…ユーリ」
一段と近付いたことでコンラッドの香りが俺を包んだ。


「二度は無い。俺を置いていくな……俺の傍から…離れるな」
俯いていると何かが零れ落ちそうだったから、上を向いて伝える。
だってコンラッドの顔を見てなんて絶対に言えない、こんな我が侭。
「ユーリ…すみませんでした。他に方法が無かったとは言え、貴方以外を陛下と呼び貴方を裏切った。」
コンラッドの唇が許しを請うように、俺の額に寄せられた。
「もし…今度同じような事になって、あんたが敵になったら俺は……迷うことなくあんたを俺の手で殺してしまうかも知れない」
「ユーリ……」
包まれた腕の中で身体を反転し、コンラッドと向き合った。


「俺の傍に居ないなら、俺以外の誰かの為に戦うあんたを見るのは、きっと耐えられないから……俺の手で殺してあげるよ」
右手を伸ばし、愛しい気持ちをこめて頬に触れる。
「そして、俺もついて行くよ」
背伸びして少しかさついた唇に、この気持ちを移す様に口づける。
「今度は魔王を選ばない……渋谷有利として、あんたを捕まえる」
あんな心を切り裂かれるような思いに今度は耐えられないよ、と呟き、俯いた俺 の身体を 軋むほどの強さでコンラッドが抱き締めた。


「あなたをそんなに苦しめた俺には、あなたに許しを請う言葉を探す事さえ罪深い」
コンラッドの大きな手が俺の頬を両手で包み、顔を上げさせられた。
「あなたのその気持ちにもう一度絶対の忠誠を誓います。どんな時も傍に居て、俺の全てをかけて護りぬきます。だから、ユーリ…」
強い意志を伝える瞳が近付く。
「もしもの時は、あなたの手で俺を……。愛するあなたの手で俺を殺してください」
重ねられた唇からコンラッドを感じた。 浅く深く繰り返される口付けが、どんな言葉よりもコンラッドの気持ちを、俺の 気持ちを 伝えた。
「……離れたら本当に…許さないからな」
「はい」
コンラッドの背に腕をまわし、彼の胸に頬を寄せた。
そこにある確かな存在を俺の全身で確認するように、深く息を吸った。


ふと視線を逸らすと、足元には1つになった2つの影。
先程のように哀しみに引き摺られることはもう無い。



どれを信じれば良いのだろうか……。
何を信じれば不安にならないのだろうか……。


目に見える姿。
手に触れる身体。
声を聞ける距離。
それとも彼を失いたくないと願う、自分の気持ち……。

でも確かなものなんて1つもないから……

だからずっと傍に居て……。



fin





コジケン以外のSSを書かれたのはは初めてだそうですが、とてもそうとは思えない
 素敵なお話をありがとうございました!!この2人の絆の深さに心を打たれましたvvv
 自分の思いに前向きで強いユーリと、全てを包み込むようなコンラッドの愛vvv
 思わず何度も読み返してしまいます。軋むくらい愛してるんですね・・・・・!!ステキ!!!
 ・・・・・そしてイラストが全てをぶち壊してしまい申し訳ありません(T△T)
小さくして破壊度は最小限にとどめたつも・・・り・・・です・・・・