4月1日 今日はエイプリルフール

だから何?

暦の上の行事にうかれるなんてせいぜいクリスマスくらいだろう。

エイプリルフールだからって何かしようって思うヤツ、世の中にどれだけいるんだろう?

多分俺のまわりじゃ、そんなバカ、ひとりだけ

でも溺れるものは藁をも掴む

普段の俺なら気にもしない今日のこの日、俺は思い切ってある作戦を実行しようと思う

 

 

 

 

 

4月1日、春休み真っ只中、俺は日向さんに家に遊びに来るように誘った。

エサは簡単「あんたの観たかった試合のビデオが手に入った」とかそういう類。

 

「ねぇ…」

日向さんにもう一つのエサ、コーラを渡しながら問いかける。計画通りあんたは機嫌よく『なんだ?』と視線を俺に向けた。

俺は身体の中心、丹田に力をいれ、(やはり勝負事はここに力をいれないと)それから日向さんの隣に座って彼の顔を覗き込むように、俺の人生15年の中での最高の微笑を浮かべて作戦を開始した。

「俺があんたのこと好き、って言ったらどうする?」

「え゛っ!?」

案の定、あんたは飲もうとしていたコーラに半分口をつけたまま固まっている。そりゃあそうだろう、誰が同性から告白されると思う?俺だって倒れるよ。

でも常日頃あんたと共に生活している俺の勘では、この作戦の成功の確立は5分と5分。あんたからの熱い視線はつまりそういうことなんだろ?

それに今日は4月1日、たとえあんたに拒絶されたって、悲しいけど「ウソだよ〜」って誤魔化せる。

「お、俺も好きだぜ」

仲間だしな、ははは…なんていいながらあんたは頭を掻いている。目が泳ぐってこういうことをいうんだな。予想通りの返事を聞いて俺は次の作戦を遂行する。

「うん、俺も。でも仲間とかじゃなくてさ、もっと別の意味で」

さらに接近してコーラを持ってないほうの手に自分の手を重ねた。わかるでしょ、て意味をたっぷり含めて日向さんの瞳をのぞく。結構この表情(かお)自信あるんだけど。

「べ、別の、意味で…?」

ゴクリ、と日向さんの喉が鳴った。泳いでいた視線がまっすぐ俺に向けられ、瞳の中に俺が映る。よしっ、もう一押しだ。

 

「……お前はどうなんだよ、俺が好きって言ったら」

謀りにかかった、と思ったのもつかの間、なんだかすごく真剣な瞳を返して日向さんはそう言った。

ズキューン!マンガみたいだけど、まさに今、俺の胸はこんな音をたてて撃ちぬかれた。

うわっ、すげぇ好き、その表情(かお)

あぁそうなんだ、あんたのその眼に俺は捕まっちまったんだ。いつまでもずっとその眼差しに俺を映していて欲しい…

 

そうやってしばし俺が惚けているうちに、日向さんの手の上に置いたままだった自分の手に、コーラをもっていたはずの手が重ねられ、俺の右手はサンドイッチ状態になっていた。

「?」

意図がわからず、一瞬ひるんだ俺に日向さんはその鋭い眼光に、ニヤリと不敵な笑みを加えた。

「俺は攻められるより、攻めるほうがいいんだが…」

「…へ?」

「ほんとは俺から開始したかったけどな。まぁいいや、お前の攻撃、受けてやるよ」

「えぇ!?」

俺が叫んだと同時に日向さんの手が頬にかかり、俺たちは唇を重ねた。

初めは軽く触れ合って、それから角度を変え何度も何度も口付けを交わした。

広い背に腕をまわすと、グッと強い力で抱き締められる。女の子とは違う鍛えられた身体を感じながら、手に入れたものの大きさに身震いがした。

日向さんの熱い吐息と、俺の名前を呼ぶその大好きなよくとおる低い声、甘ったるいコーラの味を俺は夢中で貪った。

 

 

甘く長い口付けのあと、俺たちは互いに抱き合ったまま、この幸福の余韻に浸っていた。

日向さんの胸からドクンドクンと規則的な音が聞こえる。同じように俺の胸も幸せのリズムを刻んでる。

半分開けた窓からは暖かな春風がそよそよと吹いてきて、それと一緒に俺の心も舞い上がっていく。

 

多少計画に変更はあったものの、俺の作戦は大成功を収めたわけで…4月ばか万歳!なんて頭のすみっこで万歳三唱している自分を発見。

エイプリルフールなんて今時小学生でもやらねぇよ、なんて思いながらも実行してよかった。これからの学園生活の甘い日々が頭をめぐる。

 

そんなことを考えていた俺の頬を再び日向さんの暖かい手が触れた。

あ、またキスすんのかな?と顔を上げた俺に、日向さんは恐いほどにっこりと微笑んで言った。

「なぁ、今日何の日か知ってるか?」

「!!!」

ちょっ!まさか!?まさかっ、マサカッッ!?今日はエイプリルフール、今のは冗談だって、お前に騙されたふりして騙してやったのよ。とか言うわけっ!?

「なぁ、どうよ?」

黙っている俺にさらに優しく微笑んで、もう片方の手で俺の髪を梳いた。

「………う…………」

畜生!ミッション失敗!一刻も速く撤退しろ、俺!立つ鳥後を濁さず(ここで使うのか謎だが)はやく上手い逃げ口上を考えるんだ!!

「なぁ降参?」

うれしそうに、本当にうれしそうに笑う日向さんの顔をみるとなんだか腹がたってきた。なんだよ、人を幸せの絶頂から地獄の底へ突き落としやがってッ。

ギッっと睨みつけると、勝ったな、みたいな表情を浮かべてあんたが言った。

「今日はお前が俺に告白した日」

……え?あんた今なんて言った?

思わぬ言葉に目をパチクリすると日向さんは笑いをこらえた様な顔している。なんだよ、ムカツク。俺が主導権握るんだよ!!

「いいかー?今日はお前が俺に告白した日。だいっじな記念日だから一生覚えてろよ!」

!?ちょっと何だ、それっ!?

「俺がいつあんたに告白したよ?」

「したじゃねぇか、今さっき。ついでにキスもされた」

「されたぁぁ?したのはあんただろっ!!」

「そうか?忘れた、うれしくて…」

「うれしくて忘れただ!?なんだよ、え?うれしくて…」

かあぁぁぁぁ〜っと顔が赤くなるのを感じた。見られて堪るかと思わず顔を背ける。

そんな俺の耳元で日向さんが甘く囁く。

「今度は俺からって覚えとくから、もう一度キスしていいか?」

顔を上げると、同じように赤い顔したあんたから優しいキスが降りてきた。

 

 

なんだかヘンな風になっちゃったが、とりあえず俺は作戦を無事クリアし、それ相当の報酬も戴いたといっていいんだよな。(ターゲットが今日の日を知っていて俺にあんなコト言ったのかどうかは明らかになってないが)

 

春のうららかな日差しの中、男同士抱き合ってキスして幸せになってるなんてほんと4月ばか。

今日が記念日なんて俺たちにぴったりじゃん、とか思ったりして。隣を伺うともう一人のばかが頬を寄せてくる。

 

4月1日。今日は、俺が日向さんに告白した日、そして日向さんが俺にキスをくれた日。









幼いふたりを書きたかったんですが……(-_-;)
速水の小次郎はちょっとだけ立場逆転(このサイトで唯一)

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